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4.6 ポリリズム

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4.6.1 リズムの合成

「ポリ(poly)」は英語で「多くの、複合した」という意味を持つ接頭語です。ポリリズムとは、
拍子(あるいはアクセント)の違う複数のリズムが同時に存在する状態を指す言葉です。

複数のリズムが重なるため聞こえ方はフクザツになりますが、上手く絡みあえば単一のリズムでは作れない面白いものが生まれるわけです。
たとえばこんな風に基本リズムが4拍子、メロディも4拍子の曲があるとします。

一般的なリズム 「ドレミファ」で1サイクル。そのループ

当然ながら1小節スパンで同じことを繰り返しますね。単純すぎて何にも面白くありません!そこでメロディが5/8拍子(8分音符×5つで1サイクル)だった場合を考えます。4拍子と5拍子のポリリズム、ということです。

ポリリズム 今度は「ドレミファソ」で1サイクル

すると1小節目のメロディは「ドレミファソドレミ」で2小節目が「ファソドレミファソド」次は「レミファソドレミファ」と、4拍区切りで見たときに現れるメロディが次々と変化していくわけです。たった5音のループなのに、聞いた感じもなんだか複雑・不可解になった気がしませんか?
ベース・ドラムのリズムとメロディのリズムでは1サイクルの長さに違いがあり、その比率は8:5です。ですから最小公倍数である40拍でやっと全体の1サイクルということになります。拍数を少しずらしただけで極めて複雑なメロディが生まれるわけですね!
周期は長くなりますが、でも各パートの行っていることは極めてシンプルですよね。このようにポリリズムは「シンプルだけど複雑」という二律背反を成す音楽構造なのです。

4.6.2 ポリリズムの導入

ポリリズムを曲中に取り入れた典型例としては、おなじみPerfumeの「ポリリズム」があります。タイトルからしてそうですね!
間奏で「ポリリズム」という単語を絶え間なく繰り返しますが、この単語は5文字なので4拍子にはぴったりハマりません。4と5のポリリズムが生じているということです。そのあと「リズム」や「ループ」といった3文字の単語を繰り返しますが、こちらも同様にして3と4のポリリズム。4拍子にぴったりハマらないので不思議な感じに仕上がっています。

同じアイデアが使われているのが、アニメ「さよなら絶望先生」のオープニング曲「空想ルンバ」です。こちらは間奏で「ルンバ」という3文字の単語を連呼するわけですが、3と4のポリリズムのズレによって途中から「バルン」に聞こえてきたりします。本来3拍子だったアクセントに4拍子が混ざることで、アクセントを違う場所に感じるということです。

こうしてみるとポリリズムというのがかなり特異な手法のように感じられてしまいますが、実際にはギターのフレーズなどメロディ以外で使うことで、普通の曲で普通に用いることができます。

メロディ以外での導入例

Led Zeppelin – 「Kashmir
メインリフのギターとストリングス。「タカタっ」というリズムは3/8拍子(8分音符×3つ分)ですね。それを4拍子のリズム上でずっと繰り返しています。
スピッツ – 「ルキンフォー
2番Aメロのギターに注目。こちらも3/8拍子のフレーズを繰り返しています。フレーズ自体は単純なのに、4拍子のリズムと変わっていくコードの中でそれぞれ違った様相を見せます。このようなやり方が自然に曲に組み込むのに最も適した形でしょう。
King Crimson – 「Thela Hun Ginjeet
イントロからポリリズムです。すごい複雑に聞こえますね、何拍子だかわかりますか?基本は普通の4拍子です。中央のギターはずっと4拍子のフレーズを弾いていますね。ですが右側のギターがクセモノで、こいつが7/8拍子のフレーズをかぶせています。周期は7と8の最小公倍数、56拍になりますから、もうとんでもなく複雑な絡み合いになります!
わけの分からないリズムだったのが、ベースとドラムの登場でようやく「あっ4拍子だったんだ」と分かるカタルシスのようなものがあります。面白いです。
King Crimson – 「Sex Sleep Eat Drink Dream
もう全然「普通の曲」ではなくなってますが、やろうと思えばこんなやり方もあると。1分46秒からです。この曲はドラム・ベース・ギターが2人ずつという特殊なバンド編成をしていて、そのせいなのかこんなことになっちゃってます。メチャクチャなようにも聞こえますが、どうやら変なことをしているのはドラムのうち一人だけらしい。そしてそのドラムもどうやら単一のリズムパターンをしっかりとループしているっぽい。そのパターンが全然違うリズムなのですごく変に聞こえますが、これも単なるポリリズムです。

このようにこっそり使ったり思い切り使ったりとポリリズムの活用法は幅広いです。

4.6.3 周期のずれないポリリズム

ポリリズムは、ここまで説明してきたように「フレーズ周期のずれ」を利用して、シンプルなフレーズを複雑にふくらませるのが基本です。しかしそうした周期のずれを感じさせない形のポリリズムのパターンというのも存在しています。

ひとつはラヴェルのボレロのような3連符の大々的な導入。

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おなじみのスネアのフレーズですが、これは3連符を多用していますね。スネアだけを抽出したら6/8拍子に聞こえます。この3分割リズムに他の楽器は4分割で重なっていくわけですから、これは紛れもなくポリリズムの一種です。

もうひとつは、3/4拍子と6/8拍子を重ねる方法です。
この2つの拍子は、同じ長さ・周期の中に収めることができますね。しかし4.2 拍子の項で述べましたとおり「拍子は全部合わせて幾つかではなく、1小節のリズムがどう区切られるかが大事」です。3/4と6/8はアクセントが違うので別の拍子だとも説明しました。アクセントの違う複数のリズムが同時に存在する状態がポリリズムですから、3/4と6/8を一緒に鳴らせばそれもやはりポリリズムの一種といえるでしょう。

たとえばこんな感じ。上の例ではゆったりした3/4からはじまり、そのリズムを残したまま6/8群が混ざって支配的になっていくような導入例です。4.2 拍子にあったとおり6/8拍子は2拍子と3拍子の複合拍子ですから、全体が2拍子っぽく変わります。
上例は完成度が低くてイマイチですが、こんなふうに同じBPM上で全く違ったテンポ感のリズムを乗せられるので様々な活用が期待できますね。

ゲーム「聖剣伝説3」のBGMのひとつ「Can You Fly Sister?」にてこのタイプのポリリズム用いられています。全体をとおして使われていますが、1分20秒からの部分がわかりやすいです。高音でゆったりと鳴っている笛のメロディが3/4拍子、連続した8分音符で絶えまなく鳴っているフレーズが6/8拍子。

他にもたとえば5/4拍子の曲で「12/8拍子から2拍引いたリズム」と「4/4に1拍足したリズム」を複合したりなど、応用的なやり方は数多く存在するはずです。ポリリズムの肝は「シンプルなのに複雑」に聞かせられること。「ノリはいいけど奇妙」とか「キャッチーだけど不思議」とか、なかなか達成しがたい目標があるときには使ってみるといいかもしれません。

まとめと補足

  • 拍子(アクセント)の違う複数のリズムが同時に存在する状態を「ポリリズム」といいます。
  • 基本的にはそれぞれのリズムが分かりやすいフレーズを反復し、その周期のずれによる規則的かつ不規則な曲想の変化を楽しむためのものです。
  • 周期をずらさずリズムの分割数やアクセントの違いでポリリズムを作るパターンも存在します。
NEXT : 「4.7 アウフタクトと変拍子」

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