4.7.1 アウフタクトとは
アウフタクトは、日本語だと「弱起」と言います。
アウフタクトとは、メロディなどが小節の始めではなくもっと手前から始まることを指すものです。
それは全く珍しくないことで、特に歌のサビ前などでよく効果的に用いられます。
- 「夜空ノムコウ」の「あれか(らー)」
- サザンオールスターズ「TSUNAMI」の「見つめ(あーうとー)」
- Mr. Children「しるし」の「ダーリン(だーりーん)」
- レミオロメン「粉雪」の「こな(ああぁあぁあああああぁあぁゆきいいぃ)」
などなどなど。みんな小節の頭より先にメロディが来ますね。これがアウフタクト。
用語のひとつとして覚えておくといいです!
アウフタクトで面白いことをする
メロディで使うくらいなら普通ですが、「イントロのフレーズから弱起」とかになると、ちょっと面白いことになります。
以下の曲を、4拍子カウントしながら聴いてみてください。
‥ずれましたね?ずれたと思います。
実はギターのフレーズが弱起になっていて、1,2,3,4と数えていると実際のリズムとズレてしまうというカラクリです。こんなふうにアウフタクトを利用すると、びっくりするようなことができちゃいます。
…っていう話はひとまず置いといて。(記事後半でまた登場します)
リズムを使った面白いことといえば「変拍子」ですな!( *`ω´)
その話をします。
4.7.2 変拍子とは
変拍子は、4拍子や3拍子といった一般的な拍子以外の拍子のことを指します。
普通の拍子といえば…
- 2/4
- 4/4
- 3/4
- 6/8
- 9/8
見慣れた拍子たちですね。
このような3・4ベースのもの以外は全て変拍子と言っていいと思います。
- 10/4
- 5/4
- 7/4
- 7/8
- 11/8
対して5,7,11…などをベースにもったものが、変拍子と呼ばれます。
変則的な拍子だから、変拍子。そのまんまですね!
4.7.3 変拍子の意義
変拍子は、基本的にキモチワルイです。変ですもの。前衛的なことをしたいときだけの特別な手法です。 ポップスなどで見られることはほとんどなく、プログレッシブロックやポストロックといったジャンルで使われるものです。
たとえば和音は、ぐちゃぐちゃな音を鳴らしてしまうと相当不快です。模範的なモノから外れるのは、なかなか難しい。中には「長調と短調をいっぺんに鳴らす!」なんていう例もありますが、極めてまれ。
そこからするとリズムというのは、ちょっと変にしても意外となんとかなるんですね。リズム自体が人間にとって気持ちのよいものなので!
ですから、あんまりメチャクチャにもなりすぎず、それでいて前衛的なことをしたい。そういうときの変拍子なのです。
変拍子を聴いてみよう!
変拍子はとーっても素晴らしいですよ!(^q^)いっぱい聴きましょう!!(^q^)(^q^)
プログレッシブロックの代表的なバンド、King Crimsonの「Elektrik」という曲。40秒あたりからリズムが始まりますが、8分の7拍子ですね。その後も変な拍子が色々出てきます。
確かにキモチワルイ。でもこれが不気味な雰囲気を演出していると思いませんか?これが変拍子の魅力なのです。
65daysofstaticというバンドの曲です。8分の11拍子だ。
「8分の12拍子から1拍欠けている」というイメージです。8分の12拍子ならわかりやすいのに…でもやっぱり、その割り切れないリズムが曲に独特な雰囲気を付加していますよね!素晴らしい(^o^)/
こちらはYesというプログレバンドの「Lightning Strikes」という曲。軽快なのでダマされてしまいそうですが、メインリフは4分の7拍子です!
7拍子というのは変拍子のなかでもポピュラーなもののひとつで、けっこう聴きやすいですね。
我らがスピッツの「ハチミツ」これも4拍子に見せかけて、4+4+2の、4分の10拍子構成です。しかもアンティシペーションが多用されていているのでややこしい。さらにコードもドミナントから始まるというかなり珍しいパターンで、輪をかけてカオスです。ポップに収まっていることが奇跡。
こうしたジャンル以外ではゲーム音楽でもちょくちょく見かけます。これは「聖剣伝説2」のBGMのひとつ、「予感」という曲ですが、4分の5拍子ですね。メロディがうまく拍子をリードしています。ほかFF5のボス戦にも7拍子があったり。
ね!こんなふうに、独特な雰囲気を生み出すことができるのが変拍子なのだ!!
みんなも使ってみよう!
4.7.4 変拍子の大事なポイント
変拍子というと難しいイメージがありますが、作ること自体は簡単。拍子を足し合わせるか、引くかすればいいんですね。そりゃあできます。
4拍子のあとに3拍子をくっつけて、7拍子ができました。これでオッケー☆
…いやいやいや!これじゃダメなんだ!
何にも面白くない!そう、くっつけただけでは変拍子の意味がないんだ!
4.2 拍子にて、「拍子は、全部合わせて幾つかではなく、1小節のリズムがどう区切られるかが大事」と言ったことを思い出してください。
変拍子のばあいも、合計して7になろうが11になろうが大した問題じゃないんです。小節のなかのアクセントが面白いふうに、新しいふうになることが重要なんです!
ポイント(1) : アクセントの位置が大事
興味深い例
それこそ合計がただの4拍子でもアクセント次第では変拍子のように聞こえます。
- Kazumasa Hashimoto – 「monochorme prome」
- 1分51秒からのパートに注目。3拍子のように見えますが最後に4がくっついている。数えてみると、3+3+3+3+4=16で、4分の4拍子の合計長にぴったりと収まってるんですね。だから4拍子といったっていい。でも、そうじゃない!アクセントが大事ってことなんだ。
- Led Zeppelin – 「For Your Life」
- 6/8に2/8がくっついて、合計だと4分の4拍子で数えられます。でもこれは4/4でもそして8/8でもない。強いていうなら6/8+2/8という書き方でしか正確な意味を表せませんね。実際、楽譜でも「分子が足し算のまま」という書き方が、あります。
こういう書き方が実際にある
- Frank Zappa – 「Uncle Meat Main Theme」
- 何拍子かわかりますか?実はずっとただの3拍子なんです。フレーズのまとまりを拾っていくと、どれも3拍子でまとまっています。でも普通に聴いたら全然よく分かんないですよね。これは肝心のスネアがリズムパターンを作らずにメロディとユニゾンしちゃってるからです。アクセントがめちゃくちゃなら拍子も変に聴こえるというのが、よくわかると思います。
これら、特に最後のフランク・ザッパの曲などは非常に面白くできている。そこからするとさっき僕がでっちあげた7拍子はまったくゴミくずみたいだね!そのとおりだ。
あんなしょうもないのを、変拍子だぜってドヤ顔で披露しちゃったら、ちょっと恥ずかしい。
面白いアクセントを内包していることが望ましい。これが変拍子の大事なポイントです。
それじゃあ、作ってみようぜ!ヽ(゜▽、゜)ノ
4.7.5 変拍子を作る
さて、それではどうやってアクセントをいじっていくか。その答えは今まで学んできたところにあります。
これです。こうしたリズム技法と、先ほど述べた足し算引き算の組み合わせで、無限の変拍子が創造できるわけですね!
先ほどの「ハチミツ」でもアンティシペーションを多用していました。そういうことです。
シンコペやアンティシペを使っていると、本来のアクセントの位置というのは薄れてきます。これらを派手に使うことで拍数の感覚が希薄になる。そこにすかさず1拍,2拍 足したり引いたりすれば、一気に耳新しいリズムが生まれるというわけです!
こんな感じ…これは5拍子ですね。さっきのゴミクズとは一味ちがうと思います。
4拍+1拍という形ですが、その繋ぎ目…つまり5拍目の頭であえて音を鳴らしていません。
こうすることで、「ああ…4+1で5拍だね」とは、簡単にはバレない。「なんだ!?この新しいリズムは……」ってなります。そういう工夫が大事です(やり方はこれに限りませんが)。
ポイント(2) : 繋ぎ目を隠せ
さっきのは「普通の4拍子だと思ったら終わり方が変だった。違和感アリ、キモチワルイ」って感じでしたね。「最後に帳尻を合わせる」ようなリズムはサイアク。もっと早くからアクセントをずらしていくことで変拍子は綺麗に聞こえます。
今回はシンコペーションのおかげでアクセントが散らばり、「ああ、変わったリズムなんだ。」と、きちんと認識してもらえそうです。そこが重要!
ちょっと楽器を重ねてみましょう。
ベースラインやメロディラインももちろんシンコペート。これで5拍子のフレーズが出来ました!
4.5 二拍三連で取り扱った3-3-2のリズムでもやってみましょう。
3-3-2っていうのは、4拍子をこんな感じに分割したリズムですね。4拍子のなかに3拍子の香りが混じっているので、すでに変拍子にリーチ状態!後ろにもいっこ足して3-3-2-2にしちゃいましょう!
5拍子にしてみたぞ
楽器を足してみるとこうだ。
すっかりプログレっぽいですね!っていうかKing CrimsonのLarks’ Tongues In Aspic Part Twoになりました。
そうだ誰でもKing Crimsonになれるんだ…!!
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…とまあ、こんなふうにして変拍子を作れるようになれば、変わった曲も作り放題です!
以上、第1回 プログレしようよ!のコーナーでした(・ω<)
4.7.6 もっとわかりやすい変拍子へ
しかし気持ち悪い変拍子を、もっとポップに使いたい。歌なんかつけて、イイ感じに歌いたいと思う方もいるでしょう。
ここでアクセント以外にもうひとつ、すーごく重要なポイントがあるんです!
そもそも変拍子の何がイヤかって、どこが小節の最初かわかんないこと。なんだか拍子がブツ切りされたように感じること。
だからそれこそ小節頭のちょい前に「サンハイっ!」って言ってくれたら、わかりやすいですよね。
さすがにサンハイとは言えないですけど、じゃあどうするか?
…なら、フレーズを小節頭より手前ではじめたらいい。そうアウフタクトだ!
そうなんです。変拍子とアウフタクトは、セットにするのが効果的なんです!ほとんど知られてないですけどね。
変拍子におけるアウフタクトは、小節区切りの合図になるだけでなく、小節間をつなぐ架け橋となって、リズムに”これでいいんだ”という説得力を与えます。
7拍子の歌モノを作ったとしましょう。こんな感じだ
ダメな例です!
- 小節頭からのメロディ、区切りがわからず毎回唐突に感じる
- 小節最後の方にメロディに空白があるので、いかにも8拍子から削りました感が出てる
- =メロディを短く作っておいて、後から削ったみたいなダサさがある
こういうのが、サイアクのパターン。でも不慣れだとこういうことをしてしまいがちです。
たとえばandropの「Bright Siren」という曲。
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PVはきれいなんですけど。
アウフタクトではなく拍頭のリズムにキャラクタを置いているので、「4拍子から付け足した感」がかなりあります。ましてやこの曲は4と5が交互に来るので、5の方の「付け足した感」が本当にヤバイ。
プロでもこういうのがザラにあるわけなんですね。「これじゃ4拍子でいいじゃん」って思われてしまうようなもの。
試しにさっきのサンプル、8拍子(4分の4拍子)に直しちゃいましょうか。
8拍子のが良さそうだよって、言われちゃいます。そりゃこっちの方が自然だ。
アウフタクトという架け橋が無いとこうなる。
そこで真打ち登場、メロディを2拍ぶんアウフタクトにしてみます。すると…
メチャ良い感じ。メロディが先行するので、いかにも「メロディそのものが全体のリズムを引っ張っていってる!」という感じが生まれます。そして小節ごとのつなぎも、変に拍が余ったりしてないので、「ああなるほど、このメロディなら7拍子がハマってるなあ」となるわけです!!もちろんこの「ナナ」という歌詞が \サンハイ!/ の役目を果たすので、小節の区切りにも心の準備ができます。すばらしい…!!
さっきの5拍子のやつも、律儀にアウフタクトになってますね。これはイイ。
ポイント(3) : アウフタクトで繋げ・引っ張れ
そんなに違いを感じない方もいたとは思います。
しかしプロの曲を聴くとアウフタクトとセットなのが多いのが事実です。
実例を見てみましょうか!
アウフタクトを含む変拍子の例
- Coldplay – 「Glass of Water」
- 1:12からのサビ。7拍子です。大きな区切り以外ではほとんどアウフタクトで歌が入っているのがわかると思います。
- Coldplay – 「Death and All His Friends」
- またもColdplay、2:20ごろからのパートが 2+3+2で 7拍子です。このパートに入る瞬間から、ダーダーと4分音符2連打のアウフタクトがあります。歌ももちろん同じところから。区切りがわかりやすいですね!
- スピッツ – 「ただ春を待つ」
- サビ以外5拍子です。上のColdplayのときと全くおなじ、ダッダッという4分音符2連打のアウフタクトが「次小節変わりますよ〜」の合図になっている。ドラムもギターもメロディも全員教えてくれています。素晴らしい
- King Crimson – 「Eyes Wide Open」
- メロで、連の区切りに7拍子が挟まるパターンですが、毎度のアウフタクトで「HERE IT COMES」と歌詞まで同じのが来てくれるので、これもどこが小節頭かわかりやすい。
こんな感じ。アウフタクトは変拍子をサポートする重要なモノなのだ!
言い忘れてたけど……
すっかり言い忘れてたけど、変拍子はある程度のパターンを何度も何度もリピートして、聞き手にいくらか理解してもらわないとダメです。あまりにも突拍子がない、リピートが足りないようだと、本当に意味がわからないだけのイヤな時間になってしまいます。自己満足だ。
みんな大好き豊崎愛生の「Dill」とかそんな感じです。
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メロは4+2で6拍子(正確には18/8)ですが、ご多分に漏れずアウフタクトによるガイドがあるので可解です。問題は1:37からのブリッジ部分!これは先程のフランク・ザッパと同じく「ただの4拍子なんだけどユニゾンしてるせいで拍子感覚がわからない」というヤツです。ポップな歌モノでやるにはちょっと…っていうところです。(僕は好きですけどね!)
この曲は、拍子の種類が多すぎですよね。6/4からブレイクして9/4、サビのあとはアクセントの違う9/4、ユニゾンの4/4、それから6/8でまたサビ…。これは変拍子がどう以前に曲として要素が多すぎ、NGです。
( マクロ音楽理論で説明するなら、生成が多すぎて反復が足りていないということです。)
ポイント(4) : リズムパターンを反復せよ
4.7.7 変拍子の総括
- ポイント(1) : アクセントの位置が大事
- ポイント(2) : 繋ぎ目を隠せ
- ポイント(3) : アウフタクトで繋げ・引っ張れ
- ポイント(4) : リズムパターンを反復せよ
変拍子の要点をまとめるとこういうことになります。ここまで読み通せたならもうリズムマスターは目前!ヤッタネ
とはいえマイナーな技法であることには変わりないので、使うときには表現内容やリスナーのターゲットなど、考える必要がありますね‥。しかしながら変拍子、夢が広がりますよ…(=<0>ω<0>=)
まとめと補足
- 小節頭以外の場所からフレーズがスタートすることを「アウフタクト(弱起)」といいます。
- 4拍子,3拍子以外をベースにもつ一風変わった拍子を「変拍子」といいます。
- 変拍子は、リズム技法により変化したアクセントと、拍子の足し引きによって生まれます。
- アクセントさえ変えれば4拍子でも3拍子でも十分「変拍子」になりえます。
- アウフタクトを活用することで、変拍子のリズムは格段に聴きやすくなります。
- 変拍子を使う際には意図やテーマがきちんとあったうえで、要点を抑えて使うべきでしょう。